結局三連休中、頭を冷やすと言った城戸が、病院に顔を出す事はなかった。

何となく、まだ私の心も落ち着かなくて、だから丁度よかったのかもしれない。


「それって、やっぱり胡桃も城戸の事意識してるからなんじゃない?」

頬杖を付きながら、少し笑ってそう口にしたのは、城戸の代打で来てくれている聡君で。


「“意識”はしてるかもしれないけど」

「“けど”?」

「多分、聡君とかマコが思ってるようなのとは違うと思う」

「ふーん。そうかな?」

「うん。そうだと思うよ」

「そっか。まぁ、胡桃がそう思うなら、そうなんだろうな」


笑いながら私の頭にその手をポンっと乗せた後、聡君は机の上に開いたセミナーの要項に、その視線を落とす。


「セミナー、一緒に行くの初めてだね」

「そうだなー。……あ! それでさ、俺ちょっと夜に大学の同期と飲みに行く事になったんだけど」

「そうなんだ! みんな来るんだねー! いいなぁ」

「平気か?」

「――え?」


呑気に笑う私の顔を覗き込んだ聡君の質問に、私は何の事かと首を傾げる。


「城戸と二人になるけど」

うっ……。


「まぁ、平気だよな」

「うん」

「別に、意識してないんだもんな」

「……うん」

聡君は、時々意地悪だ。


「顔、引き攣ってるよ?」

「意地悪!!」

「えー?」

「わざとでしょ!?」

「そうだよ?」

「……」

「あははっ! 冗談だよ! まぁ、飲みに行くのはホントだけど。大丈夫だろ。城戸だって、そのくらいは分かってるよだろ……」

「――聡君?」

「ん?」

「……」

「どうした?」

「ううん! 何でもない」


何でだろう。

何故か一瞬、本当に一瞬だけ、聡君の笑顔が淋しそうに見えてしまったんだ。