犬と猫…ときどき、君


ハナちゃんのオペは、三時間近くかかった。

それでも私は、ハナちゃんを助ける事が出来なかったんだ。


「残念です……」

静まり返ったオペ室に、私の冷たい声と、米原さんの泣き声が響く。


ごめんなさい。

ハナちゃんを助けてあげられなくて、ごめんなさい……。


本当はそう言いたいのに、私達はミスを犯していない限り、その言葉を口にしてはいけない。

それが、凄く辛い。


一緒に泣きたいのに、それさえも、無理やり心の中に抑えこみ、震える息を何度も何度も、静かに吐き出す。


だけど私は、この後、もっと残酷な事を彼女に告げないといけなくて……。

何度経験しても、その瞬間は、泣きたくなるほどの胸の痛みに襲われる。


――それでも私は、それを口にしないといけない。


泣き崩れる米原さんの横に無言で佇む私達は、一体どんな風に彼女の目に映っているんだろう。


手術が終わって、彼女がハナちゃんと対面してから四十分近くが経った頃。

ゆっくりと顔を上げた米原さんが、家に電話をかける為に席を立った。

フラフラと歩くその様子に、居た堪れない気持ちになる。


「助けられなかった……」

オペ室に響いた私の小さな言葉に、温かい手をそっと頭に乗せた聡君。


「頑張ったよ。胡桃も、この子も」

「……ん」

涙が零れないよう、目をギュッと閉じた私の耳に、オペ室の扉が開く音が聞こえた。

てっきり米原さんが戻って来たのだと思って、俯きがちに瞳を開く。


だけど、滲む視界の先に立っていたのは――……。


「城……戸?」

私服のまま、少し息を切らせて、その表情を歪ませる城戸だった。


「どうして?」

驚く私の目の前で、その表情を更に険しくした城戸は、大きな溜め息を吐き出す。

「“どうして?”は、俺のセリフだろうが」

「え?」

その低い声に、私は息を呑んだ。


「何で呼ばなかった?」

「……」

「何で、俺を呼ばないんだよ」

「だって! 城戸は家が遠いし」

「“遠いし”、何だよ」

「……」

「それだけじゃねぇだろーが!!」

「……っ」

普段聞くことのないその大きな声に、自分の肩が大きく震えた。


私は、ただ――……。


「なぁ、芹沢。俺はなに?」

「……」

「俺はお前にとって、どんな存在?」


城戸の……存在?


「俺は、獣医としてもお前の傍にはいられないの?」

そんな言葉を呟いた、城戸の悲しそうな瞳に、私の胸が大きく軋んだ。