「芹沢のせいじゃない」
「……」
医局に戻って、白衣を脱ぐ私に、城戸が静かに声をかけた。
「あの手のオーナーには、何を言っても無駄なんだよ。お前だって分かるだろ?」
「だけど、助けられたかもしれないのに」
悔しくて震える呼吸を何度も吐き出しながら、私は唇を噛みしめた。
「オペを強要する事は出来ないからな……」
城戸は最初から、分かっていたんだ。
あの犬にはすぐにでもオペが必要な事も、あのオーナーが、それを了承しない事も。
全部わかった上で「断わるか?」と、私に尋ねたのだ。
私が掲げたのは、ただの理想論でしかなくて。
「ごめんね、城戸。最初っから、城戸の言う事を聞いてれば……」
悔しくて、悔しくて、泣きたくないのに、やっぱり涙が零れてしまう。
「芹沢は悪くない」
「……ん」
下を向く私の頭に、そっと乗せられた城戸の手の平。
それがあまりにも温かくて――。
「悔しい」
「うん……。でも、お前のせいじゃない。だから、泣くな」
「――っ」
ダメだと分かっているのに、私はまたボロボロと涙を零してしまうんだ。

