「子宮蓄膿症だと思う」
レントゲン室の薄明かりの中、城戸がハナちゃんという名前らしいその犬の足を押さえながら、口を開いた。
「エコーも撮ってみないとだけど、多分」
「そっか……」
そうだとしたら、すぐにオペをしないと。
そんな事を瞬時に思う私の前で、城戸が一つ大きな溜め息を吐く。
「どうしたの?」
上げた視線の先の城戸は、考え込むように顰めていた顔をゆっくりと上げた。
「あのオーナー、多分問題ありだぞ」
「え?」
そんな言葉を吐き出すと、苦しそうな呼吸を繰り返すハナちゃんの背中を、そっと優しく撫でる。
「何でそう思うの?」
「三日だぞ?」
「え……?」
コロコロ変わる、主語のない話に、私の頭がついていかない。
「三日前から、この状態だったんだと」
――三日?
それに、私も思わず顔を顰めた。
「仕事で忙しくて、病院に連れて行く暇がなかったんだけど、母親に言われてしょうがなく来たって」
「“しょうがなく”って……。本人がそう言ったの?」
「おー。しかも、俺への第一声なんて“時間外料金かかるなら、診なくていいんですけど”だぞ?」
「……掛かり付けの病院は?」
「病院なんて、ここ数年行ってないってよ。ワクチンも打ってねぇし、フィラリアの薬も飲んでねぇよ」
「そっか」
それは仕方がない。
任意だし、私達がそれを強要する事も出来ない。
だけど、こんな時はやっぱり悔しくて、涙が出そうになる。
「――断るか?」
「え?」
そんな私の頭上から、ポツリと落とされた言葉に、私は聞き間違いかと思いながら、慌てて城戸を見上げた。
「多分、今すぐオペしても……難しいと思う」
そんなの、分かってる。
分かってるけど。

