犬と猫…ときどき、君


「あぁっ、すみません! 私がやりますからっ!!」


珍しく診療時間終了前に診る患畜がいなくなって、手持ち無沙汰だった私が受付のカーテンを閉めていると、お会計が済んだカルテを運んできたサチちゃんが慌てて駆け寄った。


「いいよー。こっちも、あと城戸が診てる子で終わりだし! カルテ返したら上がっちゃって!」

「マジですかっ!? 定時ですよ!?」

「あははっ! マジですよ。たまには早く帰って、ゆっくり休んで」

「胡桃センセェ~! ラブ!」

「はいはい。他の子達にも伝えといてね」

「はーい! すみません! お言葉に甘えますっ! ありがとうございますっ!!」


ここ最近で一番の笑顔を見せながら、バタバタと走り去る彼女が本当に可笑しくて。

私は笑いながら、カーテンを閉める手を再び動かし始める。


「ん?」

それから鍵を閉め、ブラインドを下ろしたところで、入り口の外から“コンコン”という、小さな音がした気がした。


――急患?

それにしては、随分落ち着いたノック音。


「誰だろ」

小さく首を傾げ、ゆっくりとブラインドを上げた瞬間。

「――っ」

ドアを挟んで、真正面に立つ彼女の笑顔に、思わず息を呑んだ。


そこには――。


「松元……さん」

もう何年か振りに見る、松元さんが立っていたんだ。


――何で彼女が?

「……」

いや、“何で”じゃないか。

彼女がここに来る理由なんて、一つしかない。


微かに震える指先を伸ばし、ドアのロックを外す。


カチャン――……。

小さな音のはずなのに、それが妙に大きく聞こえる。


「ふー……」

緊張している自分に気が付いて、私は静かに、長い息を吐き出した。


「こんばんは」

ドアが開かれた瞬間、待合室に響いたその声に、胸がザワつく。


もう、昔の事。

全部全部、忘れた事のはずでしょう?


自分に言い聞かせるように、もう一度息を吐き出すと、握る指にギュッと力を込めた。