結局、城戸が病院に戻ってきたのは、午後の診察が始まる少し前だったみたいで……。
お昼の途中からオペを始めた私と、“あの後”二人っきりになる事はなかった。
だけど、体に残る城戸の温もりを、ふとした時に、思い出してしまう。
「ふぅ……」
一瞬オペ室に顔を出したマコに診察に戻る事を伝えた私は、オペ着を脱ぎながら、小さく息を吐き出す。
取り合えず、他の子達に気を遣わせる事がないようにしないと。
「よしっ!」
髪を結び直して気合を入れ、診察室に向かう為に、オペ室を出た瞬間、
「芹沢」
突然かけられたその声に、身体がビクッと跳ね上がった。
「城戸……。どうしたの?」
私に声をかけたのは、オペ室の扉のすぐ横の壁にもたれかかる城戸で。
少し戸惑いながら声をかけた私に、一瞬視線を向けたかと思えば、それをスッと逸らして下を向く。
「芹沢、まだ表出て来んな」
「へ?」
「浜田さん来てる」
「あー……」
そんな言葉を口にして顔を上げた城戸は、私の微妙な反応に少しだけ口元を緩ませて、「大変だなぁ、お前も」と今度はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
その表情にホッとして胸を撫で下ろす私に気付いたのか、フッと息を吐き出し、私の瞳を――今度は少し困ったような表情で見つめて、ゆっくりと口を開いたんだ。
「今朝、悪かったな」
ホツリと落とされた言葉に、鼓動が少しだけ速まる。
「ううん……。私こそ、ごめん」
「別に、お前が謝る事じゃねぇよ」
「……」
「……」
小さな沈黙の後、先に口を開いたのは、少しだけ口角を上げて笑った城戸だった。

