犬と猫…ときどき、君


目の前で、その大きな瞳に涙を浮かべる胡桃に、募るのは後悔の気持ちばかり。

こんな事したくなかったのに。


仲野。

やっぱり俺は、強くなんかないんだよ。


だってさ、胡桃を悲しませたくないって思ってるくせに、やっぱりこうして、自分の気持ちを抑えきれずにいるんだ。


「……ごめん。頼むから、泣かないで」

胡桃に、そんな顔をさせたいんじゃない。


――だけど。


「どうしてそんな泣きそうな顔してるの?」


そんな言葉を口にしながら、そっと俺の頬に触れたのは……。

あの頃と変わらない、胡桃の少し冷たい手だった。


ホント、何してんだろう。

何してんだ、俺。


「悪い」

「え?」

「忘れて」

今は、こうするしかない。

「……」

――“今は”?

違う。

きっと、“これから先もずっと”だ。


ゆっくりと引き離した胡桃の体。

困惑しながらも、心配するように俺を見上げるその瞳に、また胸が痛くなる。


そっと撫でたその髪からは、やっぱり胡桃の香りがして……。


――俺は、どうしたい?


胡桃を守りたいと思うのに、湧き上がるのは自分勝手な想い。


本当は、胡桃が欲しいんだ。

全部壊れてしまってもいいから、それでも胡桃が欲しい。


「んなこと、俺が出来るかっつーの」

俺には、そんな事をする資格さえねぇんだよ……。


呆然とする胡桃を残したまま、医局を出た俺の口から漏れるのは、やっぱり自嘲的な笑いだけだった。