犬と猫…ときどき、君


「マジ、何の拷問だよ……」

ヒラヒラしたキャミソール一枚で首を傾げる胡桃に、一瞬ドキリとした自分が本当に嫌になる。


大体さぁ、ランの向こう側は家だぞ!?

いくら間に細い川を挟んでるからって、ブラインド下げないって、ありえねぇだろ?

バッカじゃねぇの?

……俺。


小さく頭を振った俺は、煙草を消してゆっくり立ち上がる。


無用心な胡桃にムカついているフリをしながら、本当は、元彼と胡桃の諸々を想像して……。

走った胸の痛みを誤魔化そうとしている自分に気付いて、情けなくなったんだ。


「くだらねぇヤキモチなんて妬いてんじゃねーよ」

そんな事を呟きながら、立った医局のドアの前。


ん~……。

一瞬躊躇して、ドアノブに伸ばした手が止まる。

でもやっぱ、忠告くらいはすべきだろ。

つーか、今の時点でも外から丸見えだし。


ゆっくりと押し開けた扉の先には――……。


「ちょ、ちょっと! 何っ!?」

案の定、俺が不機嫌な理由になんて一切気付いていない、瞳を大きくした胡桃の姿があった。


つーかさぁ、そんなにビックリするなら、隠すくらいしろっつーの!!


大きな溜め息を零したあと、その横を通り過ぎれば、あの頃と同じ香りがフワリと鼻をくすぐる。


「……っ」


――ホント、バカだと思う。

いつまでもそんな事を、こんなにも覚えている自分は、本当にバカだと思う。


ブラインドが下ろされるにつれて、薄暗くなっていく部屋の中。

俺の背中に向けられる胡桃の視線に、息苦しさを覚えてしまうのは、きっとこの空気のせい。


鼻の奥に残る胡桃の香りが、平静を装う俺の心をかき乱すから……。


だから、ダメなんだ。