犬と猫…ときどき、君


あーもー……。

朝っぱらからビビらすなよ。

小さく溜め息を吐きながらその顔を見上げれば、思った通り。


「……寝れなかったとか?」

「別にそういうワケじゃない」

俺の言葉に、その腫れた瞳を微かに揺らすから。

俺は、ついその言葉を口にしてしまいそうになる。


“じゃー、どういうワケなの?”


目を腫らしている時点でバレバレなのに、あの頃みたいに、胡桃は俺を頼ったりしない。

俺は胡桃の彼氏でも何でもない、ただの“同僚”。

だから……これが当たり前。

そんな事は、嫌というほどわかってる。


それなのに、その泣きそうな顔に指を伸ばしてしまいそうになるから、俺は誤魔化すように視線を逸らして、逃げるんだ。

いつも、いつも。


「はぁー……」

結局、いつものようにランに逃げ込んだ俺は、いつものように吸いたくもない煙草を燻《くゆ》らせる。


何かちょっと、疲れてんのかなぁ……。

そんな事を考えながら、ぼんやりとした視線を医局の窓に向けると――。


てっきり、ブラインドを下ろしていると思っていた窓の奥には、俺の顰めっ面を見て、何故かつられるように顔を顰めた胡桃が立っていた。


「あーもー……」

その首筋から鎖骨までのラインが大好きだった。

そっとそこに唇を寄せて、噛みつくように、何度も何度もキスを落とした。


僅かに開いた紅い唇から零れ落ちる、胡桃の細い声も……。

目を細めながら、苦しそうに漏らす吐息も、果てる瞬間、俺の首に巻き付けられるその腕も。


全部、全部……大好きだった。


だけど、それと同時に思い出したのは、胡桃の“元彼氏”の存在。

「……」

痛んだ胸に、微かな息苦しさを覚える。