犬と猫…ときどき、君



病院に着くと、毎日毎日、同じ事の繰り返し。

着替えて、入院している患畜をランに出して、戻ったら状態のチェック。

必要だったら点滴を繋いで、あとは一日診察とオペ。

別に嫌いじゃないけど、時々無性に「うがぁーー!!」となる事がある。


クレーマーオーナーに無理難題を突きつけられる事も多々あるし、俺らだって人間だからさ。


笑顔で「ちょっと待ってて下さいねー」なんて言いながら診察室を抜け出して、そのまま医局とか検査室に引っ込んで、その辺の物に八つ当たりの蹴りを食らわせたりする事もある。


医療の現場と、サービス業の間に位置するこの特殊な仕事は、普通の仕事とはやっぱり少し違う。


だから余計に、スタッフ同士の仲が悪いと本当に最悪で、その点に関して言えば、この病院はすごく恵まれていると思う。


でも実は、篠崎と栗原がいなくなった時、胡桃も辞めるんじゃないかって思ったんだ。

だけど、俺の「どうする?」という問いかけに、胡桃は顔を顰めて、

「は? 私? え? 辞めた方がいいの?」

なんて言うから、ホッとして、あいつらしくて笑ってしまった。


俺も胡桃も、別に元々は社交的な方じゃないと思う。

少なくとも大学時代の胡桃は、何も知らない奴らに“近寄りがたい”と、そう言われいたし。


だけど、胡桃と一緒に働き始めて、初めて胡桃の診察するところを見て、すっかり“社会人”になっていた彼女に俺は驚いた。


どこの業界にもいるんだろうけど、人間以上にペットに愛情を注ぐ人が多い今の時代、変わり者のオーナーに嫌という程遭遇する。


偏見的に“女医はキツそう”とか“信頼できない”とか、そんなバカみたいな理由で、女医を嫌うオーナーも多い。

そんな中、ここには胡桃の雰囲気が好きで通っていると言うオーナーも結構いる。


それを聞いた、当の胡桃は、「嬉しいけど、社交辞令か、城戸が嫌なだけかもしれないし~?」なんて言いながら、楽しそうに笑うんだ。

その笑顔に、俺がちょっとだけときめいちゃってるなんて、気付いてもいないんだろうけど。


アホみたいに可愛い笑顔で吐いた毒に、少々ムカッとしたって、俺は胡桃がいてくれてよかったって本気で思っている。


だから、胡桃には余計な心配はかけたくないのに……。


「ん~……。いい言い訳ねぇかなぁ?」


小さく唸りながら、白衣に袖を通した瞬間。

「おはよ」

ガチャリと開いた扉に驚いて、その後聞こえた彼女の声に、二度驚いた。


「……うぉっ! ビビったぁ!!」

丁度、胡桃に対して後ろめたい事を考えている最中だったせいもあって、肩が無駄に跳ね上がる。