「よかった」
「あ?」
俺の返事を聞いた途端、さっきまでの真面目な顔を引っ込めて、ニッコリ笑った篠崎に、間抜けな声が漏れる。
「春希が“及川さんであって欲しい!”なんて言う男じゃなくて、ホントよかった」
「は?」
やっぱり事態がイマイチ掴めていない俺の目の前で、“さすがハルキュン!”なんて言っている篠崎に、俺はただただ顰めっ面を向ける事しか出来なくて。
「実は俺も、一瞬及川さんのコト疑っちゃったんだよねぇ」
何だ……それ。
「篠崎」
「わかってるって」
痺れを切らした俺に篠崎は小さく肩を竦めると、もう一度、俺の顔を覗き込んで言ったんだ。
「もう一人、いるんじゃない?」
「え?」
「誰か、忘れてんじゃね?」
――もう一人?
誰だ?
俺達と同時期にいて、今でも出入りしている奴。
わからないけど、多分教員はないだろうから、大学院生で残っている奴か研究生か……。
「……」
“研究生”?
ドクン。
その言葉に、俺の心臓が、大きく一度、音を立てた。
それはきっと、何かを確信した証拠。
俺の脳裏に浮かんだのは――“お金がないから、大学院には進めないけど……。研究続けたいんで!”――そう言って笑った、ソイツの姿。
「な……かの?」
口から出たのは、カラカラと、掠れた声。
“仲野”なのか?
俺の口をついて出たその名前に、目の前の篠崎は自信ありげに笑った。

