あぁ、そうだ。
あの頃の俺は、少し冷たい彼女の肌に、こうして何度も触れていたはず。
それなのに、どうしてそれを覚えていられないんだろう。
「胡桃」
口をついて出てしまった言葉は、自分でも驚く程優しく、夜の空気に響く。
その声に、目の前の胡桃が息を呑むのがわかった。
だけど次の瞬間、頬に触れていた俺の手をスッと避け、無理やり小さく笑みを浮かべる。
なぁ、胡桃。
俺はさ、胡桃の事が今でも忘れられないんだ。
胡桃はもう、違う道を歩いてるってわかってるのに……。
それなのに、伝えてはいけないこの気持ちを、全部お前にぶちまけてしまえたらって、時々自分勝手に想像してみたりする。

