犬と猫…ときどき、君


気が付けば、さっきまでの頭痛は嘘みたいに消えて、変わりに生まれたのは、ピリリと電気が流れるような感覚。

その後に感じたのは、ピッタリと肌に吸い付くような、その温もり。


「……っ」

目を見開く私を真っ直ぐ見つめたままの城戸は、躊躇いがちにその唇を開く。


「ごめん」

薄暗い街灯で、ぼんやりと照らされたアスファルトの上に、ポツリと落とされた、城戸の言葉。


「え?」

どうして城戸が謝るの?


動けないでいる私の頬に添えられたままの城戸の手の平が、そこを静かに撫でれば、体中に、ぞわりと鳥肌が立つ。


城戸の体温を確かめるように、ボーっとっとしている私を見つめたまま、小さく息を吐き出した城戸が、

「胡桃」

静かに、私の名前を呼んだ。


ちゃんと言わないと。

いつもみたいに“胡桃って呼ばないで”って、言わないと……。


――それなのに、どうしてかな?


「な……に?」

頭では分かっているのに、心がその邪魔をしている。


きっと心が、錯覚を起こしてるんだと思った。

城戸の声と手の温もりで、まるであの頃に戻ったような錯覚を。


「胡桃」

驚くほど心地よく耳に響く、城戸の声。

あの頃のように“春希”と、そう呼んでしまいそうになる。


だけど、違う。


この声も、頬に触れる温もりも……もう、私のものじゃない。


――今は全部、あの子のもの。


頭が少し、混乱していただけ。

それを鎮めるようにゆっくりと息を吐き出した。


城戸に、こんな事をさせちゃいけない。


「……胡桃?」

頬に触れる城戸の手をそっとよけた私は、出来る限りの笑顔を浮かべる。


「ごめんね、城戸」

「……」

「帰ろっか」


大丈夫。

城戸の優しさを、勘違いしたりしない。

それに、あの子に――松元さんに、申し訳ない。


私は、ただ懐かしいだけのこの感情を間違えたりなんかしない。


それを“恋”だなんて間違える事は、絶対にない。