犬と猫…ときどき、君


「私も昔、それを経験しちゃったんだと思う。だから、辛い。それを思い出して……辛い」

目の前の智也の顔が、涙で滲む。


「私きっと、もう智也に抱かれる事も出来ない」


ダメなんだ……。

一度心がこうなると、もう体も受け付けなくなってしまって。

目の前で一瞬眉間に皺を寄せ、瞳を閉じて、細く長く自分を落ち着けるように、息を吐き出した智也。


「……わかった。ごめんな」

あぁ、またこんなにも悲しそうな顔をさせてしまった。

言葉を上手く紡げない私は、何度も頭を横に振る事しか出来なくて。


「そんな顔しなくていいよ」

こんなにも優しいあなたを、どれだけ傷付ければ気が済むんだろう?


「胡桃?」

「……ん」

「大好きだったよ」

「――っ」


“ごめんなさい”

“私も好きだった”

それを言葉に出来ない私の耳に届いたのは、困ったように笑った智也の声。


「部屋の荷物は、捨てていいから」

ゆっくりと遠ざかって行く足音に、私は震える手で口を押さえたまま、その場にしゃがみ込んだ。


頭が、痛い。

ズキズキ、ズキズキと、痛みが徐々に酷くなっていく。

指先がどんどん冷たくなるのを感じて、私は一度、大きく深呼吸をした。


こんな自分が、本当に自分が嫌になる。


“非恋愛体質”

その時私の頭に浮かんだのは、数日前にマコに言われた、その言葉。