「昔の事だから、もうあんまり覚えてないや」
“だから、気にしなくていいんだよ?”――続けたかったのは、そんな言葉。
だけど目の前の城戸が、私の一言でまたその瞳を曇らせるから。
つい、口を閉ざしてしまうんだ。
城戸が何を考えているのか、もう私にはわからないんだって、こういう時、強く思う。
もうあの頃みたいに、一番近くにいるのが私じゃないんだって思い知る。
「さて、そろそろ帰ろうかな」
残っていたコーヒーを一気に飲み干し、立ち上がった私の瞳には、
「じゃー俺も帰ろ」
パタンとテキストを閉じた、城戸の姿が映る。
えー……。まぁいいんだけどさ。
ちょっと気まずいから、先に帰ろうかなぁって思ったのに。
「家まで送る」
「……いいよ」
「はい、却下ー。戸締まりしてくるから、さっさと着替えて」
だから、嫌なんだ。
城戸の優しさを、私はもう素直に受け取る事が出来ないから。
こうして城戸の優しさに触れるのが、嫌で仕方がない。

