「ねぇ、城戸ー」
「あー?」
「……」
「何だよ」
呼びかけてはみたものの、その言葉を口にしていいのかがわからない。
“もう私は気にしてないから、松元さんの事、普通に話そうよ”――それって何か、違うよね?
う〜ん……。
「芹沢」
「ん?」
「帰んねぇの?」
突然話題を変えられたから、一瞬その言葉の意図が理解できなかった。
「あー、ごめん。着替える?」
「いや、そうじゃなくて。お前、帰んねぇの?」
「もうちょっと、居ようかな……」
「ふーん」
「城戸は?」
「じゃー俺も、もうちょい居る」
「そっか」
“じゃー”って、何よ。
カチカチと小さく響く、時計の針の音。
再びテキストに視線を落とした城戸を見つめながら思い出したのは、“あの瞬間”、鮮明に蘇った城戸の声。
“くるみ”
忘れたはずのその声は――……
まるで耳元で囁かれているかのように、一瞬蘇っては消えていく。
城戸のことは好きだと思うけど、それは友達として。
だって城戸と別れたあと、私には好きな人だって、彼氏だって出来たし。
それって城戸を忘れてる証拠だよね?
それなのに……どうしてなんだろう?
マコに言わせれば、“城戸を忘れられていないから”らしいけど。
それでもやっぱり、一時は城戸を避けて、全く口がきけなくなるほど傷付いたし。
私だって、城戸の気持ちに気付かずに、たくさん傷付けてしまったワケで……。
それに触れずに、何事もなかったかのように過ごすこの関係が何なのか、自分でも本当によくわからない。

