頭の中の自分は“やめろ”と言っているのに、心がその邪魔をする。
ドクドクと嫌な音を立てる心臓は、きっと数週間後に起きるそれを、暗示していたんだと思う。
「私と付き合って下さい」
「……は?」
目の前で、“ふふふっ”と楽しそうに笑う彼女の口から出た、その言葉。
きっとそれは、“どうやって確かめるんだ”とういう、さっきの質問への回答なんだろうけど、意味が分からない。
「もちろん“付き合ってるフリ”ですけど」
付き合ってる……フリ?
眉を顰め何も言えないでいる俺を、笑顔のまま見上げた彼女は、ゆっくりと、その言葉を口にしたんだ。
俺の心を見透かした……その言葉を。
「本当にハルキさんの事が好きだったら、泣いて喚いて、縋り付いてでも、ハルキさんを取り戻したいって、そう思うに決まってる」
「……」
「自信があるなら、悪い話じゃないでしょう? ただ、付き合ってる“フリ”なだけだし。何より、たったそれだけで芹沢さんの気持ちに確信が持てるんですから」
動揺を覚られないようその目を見据える俺を、まるで嘲笑うかのように、彼女は尚も話し続ける。
「もし確信が持てたら、その後は“あれはただの噂だ”とでも言えばいいんです」
「……そんな簡単にいくかよ」
――そうだ。
こんな話、聞くな。
「大丈夫ですよ! だって、私にだって彼氏がいるし」
「……」
「もしも芹沢さんが春希さんを無事取り戻せたら、私もハルキさんも、お互いの相手と仲良くすればいいんです。周りが“ただの噂かぁ!”って思うくらい」
そんな上手い話、どこにある?
「それをやって、あんたに何の得があんの? それに、仲野がそんなの聞き入れないだろ」
一瞬冷静になった頭の中に、ふと浮かんだ考え。
“それじゃー、松元サンは何も得をしない”、“何か裏があるんじゃないか”って……。
案の定、俺の言葉に、目の前の彼女はにっこりと微笑んだ。
まるで“待ってました”と言わんばかりの表情で。

