「じゃー、そろそろ帰るかな」
外がだいぶ暗くなって、手に持っていた、何杯目かもわからないマグカップのコーヒーを飲み干した頃。
聡君がゆっくりと立ち上がった。
「うん。ごめんね、遅くまで」
「いや、全然。また来るよ」
にっこりと笑った聡君が、見送りをする為に立ち上がった私の頭を撫でようと、指を伸ばす。
それとほぼ同時に、少し薄暗くなった部屋にメールの受信音が響いた。
「……あれ? メールだ。ごめん! ちょっと待っててね」
聡君に一声かけて、ゆっくりとその画面に視線を落とす。
「何だろ?」
「どうした?」
「いや、何か……知らないメアド」
受信ボックスを開くと、そこには、パソコンからのものだと思われるメールアドレスが表示されていた。
「迷惑メールかな?」
一人でそんな事を呟きながら、少し顔を顰めてボタンを押した瞬間、目の前の画面に釘付けになった。
「何……これ」
携帯のボタンを押す手から、震えが全身に伝わって、力がスーッと抜けていく。
ガタガタと震える足では、もう自分の体を支える事が出来なくて、その場にペタンとしゃがみ込んだ。
なに……?
視界がぐにゃりと歪んで、胃なのか、胸の辺りなのか、とにかくもの凄い吐き気が込み上げる。
「胡桃っ!!」
――聡君。
遠くで、私の名前を呼ぶ声がする。
「胡桃!! おいっ!!」
目の前に、聡君がしゃがみ込んだのはわかるのに、身体が全然言う事を聞かなくて。
「……何だよ、これ」
私の手から携帯を抜き取り、その画面を見た聡君の低い声にハッとした。
「アイツは?」
「……」
「研究室か」
「待って……っ!! いいから!! 平気だから!!」
私の肩に触れていた手をスッと離して立ち上がり、部屋を出て行こうとする聡君の腕を、慌てて掴む。
「いいワケがないだろ」
普段は絶対に私に向けられる事のないその声に、身体が大きく震えた。
「胡桃。お前これ、知ってたのか?」
「……」
「あの日泣いてたのは、これか?」

