犬と猫…ときどき、君



「はぁー、疲れたー……」

「お疲れー」

獣医用の二人きりの医局。

入って来るなり溜め息を吐きながら首にかけていた聴診器を外し、ぐったりとした様子で白衣を脱ぐ城戸に労いの言葉をかける。


「やっぱ、休診日明けは患畜数が半端ねぇな」

「ねぇー……。毎度の事ながら、参っちゃうね」

動物の命を預かる病院だから、休診日は月にたったの一日だけ。

うちの病院の場合は、それに当たるのが第二日曜日。

今日は休み明けの第三月曜日だから、いつもにも増して、たくさんの患畜が診察を受けにやって来るのだ。


「もう一人くらい、獣医雇うかー?」

「んー……でも、午後からは聡《さとる》君来てくれるし。大丈夫でしょ」

「あー、そっかぁ。今日は“イトコン”の日かぁ」

そう言って、城戸はちょっと嫌そうに顔を顰める。

及川 聡は、同じ大学の一期上の先輩で、私のイトコでもある。

いつも私の事を助けてくれる彼の事を、城戸は“シスコン”ならぬ“イトコン”なんて言うけれど……。


「ちょっとー、人のイトコにケチつけないでよ! あんな安いバイト代で来てくれてるんだから、感謝してよねー」

二年とちょっと臨床をして、また大学に戻った聡君は、大変な日に格安で診療を手伝いに来てくれる。


「はいはい。くるセンもイトコンだもんな」

「だから“くるセン”やめてよ」

城戸の言葉に、私は手元のお弁当に視線を落とす。


「……」

「……」

小さな沈黙のその後に、

「なぁ」

今までとは違うトーンの城戸の声が、二人きりの部屋に響いた。