犬と猫…ときどき、君


その日も二人ともバイトが入っていて、早く終わる予定の春希が、私をバイト先まで迎えに来てくれる事になっていた。


――だけど。

「……あれ?」

ロッカールームに戻った私が開いた携帯には、珍しく、春希からの不在着信が三件も入っていた。

そしてその下に表示されていたのは、一件の未読メール。


それを開いた瞬間、私は息を呑んで、その画面を何度も確認してしまった。


“松元さんがバイト先で倒れたから、家まで送ってく。悪いけど、イトコンに送ってもらって(嫌だけど!!)”


届いていたのは、そんなメール。


どうして……春希が?

何で春希が、あの子を送らないといけないの?


――こんな風に思ってしまう私は、性格が悪いんだろうか?


だけど、そんな自分を責めるような気持ちは、家に帰って来た春希から聞いた事実で、一気に消え失せた。


「なんで春希が送っていったの?」


誰もいない部屋に帰ってから、ずっとソワソワしていた私は、春希の“ただいま”というその声に、小さく“お帰りー”と返す事しか出来なくて。

ソファーに腰掛けて春希の目も見られないまま、クッションに顔を埋めて、思わずそんな言葉を口にしていた。


気にし過ぎなのは、自分でもわかってるけど……。

そんな風に、思っていた。


――それなのに。


「あー……うちのバイト、ほとんど男だろ?」

「……うん」

「で、あの子“慣れてない男の人が苦手だから”って言い出してさ」

その時のことを思いだしたのか、少し面倒臭そうに眉間にシワを寄せた春希。


「それで?」

「そしたら店長に“お前、松元さんと同じサークルなんだろ? だったら一番慣れてるんだから、送ってってやれ”って言われたんだよ」

「……」

クッションを抱きしめる腕に、力がこもる。

だって、そんなのあの子の狙いに決まってる。

そもそも、普段の彼女を見る限り、どうしたって“慣れない男が苦手”だなんて思えない。


だけど春希は、そんな事どうでもいいと思っているのか、気付いていないだけなのか、

「煙草くせぇから、シャワー浴びてくる」

そう言うと、私の頭をポンっと叩いて、バスルームに消えて行った。


「はぁー……」

その背中に小さく溜め息を吐いた私は、さっきよりも深く、クッションに顔を埋める。


春希と付き合ってきて、こういう事でこんな気分になるのって初めて。

こんな時、どうしたらいいんだろう。

でも、もうすぐ旅費も貯まるし。

それまで我慢するべきだよね?


「ん~」

小さく唸った私の口から出るのは、やっぱり大きな溜め息ばかりだった。