犬と猫…ときどき、君



そのまま訪れた小さな沈黙の最中《さなか》、さっきまでのふざけた笑みを引っ込めた春希が、不思議そうな顔をして首を傾げた。

――なに?


「あー、そっか。さっき……」

そして、スッと伸ばされた綺麗な指が、戸惑う私の髪の毛に絡まる。

たったそれだけの事なのに、肩がビクリと震えた。


「草」

「……え?」

「草取っただけだから、そんな怯えないでいただけますぅー?」

そう言われて視線を向けた春希の指先に抓まれていたのは、小さな緑色の葉っぱ。


「あっ……ご、ごめんね。ありがと」

多分、というか、絶対。

春希に押し倒された時に、私の髪に絡んだその葉っぱ。


思い出してしまった、さっきの春希の感触に、赤くなっているであろう顔を隠したくて、パッと後ろ向いて。

たいして用事もない冷蔵庫を開けてみる。


「な、何か飲む?」

絶対に動揺してるのなんかバレバレなのに、バカみたいに平静を装ってみたりして。


「いらない」

「……」

「取りあえずさぁ」

「う、うん?」

「シャワー浴びてくれば?」

「あー……えぇっ!?」


シ、シャワー!?


慌てて後ろを振り返った私を見て、耐えていたらしい笑いを爆発させ、大笑いした春希は……

「ホント変なヤツ」

いつも通りのセリフを口にした後、私の頭をポンと叩いた。


「でも、さっき浴びてたか。そのまま寝る?」

「もっ、もっかい浴びる」

私の返事に軽く頷くと、“出たら起こして”なんて言いながら、ベッドにゴロンと横になる。


「……」

こんなに意識してるのって、私だけ!?

だってだって、あんな事の後のこんな事態なんだから、これが普通じゃない!?