早時様は苦し気に目を瞑った。


思い出すのが辛いかの様に、しばらく口を開かない。


「抱きしめてもいいか?
姿は消すから…。」


真剣な眼差しでそう言うと、私の答えを待たずに抱き寄せられた。


瞬間、グニャリと空気が歪んだ感じがした。


きっと今、二人の姿が消えたんだ。


早時様の配慮。


やっぱりこの『人』は優しい。


「その祀られてる少女っていうのは、俺が鬼になる為に生け贄にした雪路だ。」


「…!!」


たった今、優しいと思ったこの『人』が生け贄?


「頼む。恐がらないでくれ。」


私を抱きしめる早時様の体が少しだけ、震えていた。