「もう…終わったことなのに…」 なにやら呟く佐藤に、それ以上聞くことは憚られた。 そっと左耳に手をあて、無意識なのか、なびく髪をおさえるためか、赤いものを隠すような仕草をした。 そしてそれから、フッと小さく笑うと。 「先生、もう帰りましょうか」 教室のドアへと向かっていく、佐藤の後ろ姿を俺は眺めるしかない。 「…気をつけて、帰れよ」 「先生も。まるで眠そうな顔してますから、安全運転でお帰りください」 俺を振り向き、そう、してやったみたいな顔で言われた。 さっきまでの雰囲気は、ない。