月夜の泪





――――――…………
――――…………



"私の宝物"


確かに上から聞こえた声はそう言った。


上を向いたまま暫し目を見開き黙りこくる。


――…だって、そう言うのは


「…お母さん…ッ」


いつも口癖のように言っていた言葉。
お兄ちゃんにも、私にも…―


「…会いたい…ッ」

一度でいいから会いたい。
また抱きしめてほしい。
話したい事が沢山ある。


「出てきてよ…ッッ」


姿だけでも見させて―…



そう呟いた時、ふわっと回りが明るくなり暗闇は消え去る。


「…お母、さん?」


光のなかに人影を見つけ呟けば徐々に形がはっきりとしてくる。


「…久しぶり、蓮南?」


光のなか佇むのは、紛れも無い母の顔。


「…昔のままなんだから」


勢いよく抱き着けば、呆れたように呟くが優しく微笑み抱きしめてくれる母。


「会いたかった…ッッ」

「複雑だけど…私も会えて良かった…ッッ」


ああ、お母さんの涙を見るのは二回目だけど…嬉しくて仕方がないのは許してね?


優しく頭を撫でる母に何も言わずにただ母を肌で感じ微笑む。


「…蓮南?」


名前を呼ぶ母に何も言わず顔を上げ耳を傾ける。


「辛い思いをさせて…ッッ…その手を赤く染めてしまって…ごめんなさい…ッッ」


…ボスのこと、だよね?


謝りながら涙を流す母に何も言わずに腰に回す手に力をいれる。


「…私は、ボスに会えて…浬津に会えて…よかったと思ってるし後悔してない。…それに選んだのは私だから」


―…だから、泣かないで?


そう言葉を紡げば、母の抱きしめる腕にも力が入る。