すっかり呆けていたから正確には覚えていないけど

俺達はたぶん、マユミさんの近況や子供の話なんかをしていたと思う。


車は住宅街をすいすい通り抜け



気がつくとラブホテルのベッドの上だった。





初めての行為は
雑誌で見るような感動も
興奮すらも無くて


残ったのは
何とも言えない気だるさ。





「まさか初めてだったなんてねー」


ルージュの剥げた唇から
煙草の煙が細く吐き出される。


「ねえ、そういえばさ、成瀬さんってまた新しいビジネス始めようとしてるんでしょ?」


マユミさんは独り言のように喋り続ける。


俺の心の中は
驚くほどに静かだった。

ひとつの波も立つことはなかった。

あまりに無感動な自分に愕然とし
こんな無駄な行為をユリカにしなかった事を、やはり間違いじゃなかったんだ、と思った。



がらんどうの俺の頭に
マユミさんの声が響く。



「――成瀬さんのこと邪険にしないであげてね。
確かにあんたの母親に体売らせてたのは成瀬だけど、もともとは彼女の借金返済のためだし。
……それに、彼女が亡くなったあと、残った借金を成瀬さんが払ってあげたって噂よ」


「え?」