春となりを待つきみへ


ああ、もう、ほんとうに。

わたしはきみがいなきゃどうしようもないらしい。

ろくに何もできやしない、どころかひとりで泣くことすらままならない。


でも、きみさえいれば、それで、世界は回る。


他に何を失っても。

そう、きみさえいれば、わたしは、大丈夫らしい。



「うわああああん!! ハルカあー! わたしもうやだー!!」

「はいはい。何があった?」

「先輩にフラれたー! 浮気されてたー!」

「うん」

「わたしと美女とどっちとるのって訊いたら、ごめんて言われたー!」

「美女だったんだ、相手」

「ふざけんなー! わたしのが絶対もっとずっとずっと先輩のこと好きなのにー!!」

「そうだね」

「……うぅ……大好き、だったのに……」

「うん、知ってる。それで?」

「……ショックで、なんか、お金持って、電車乗った」

「ひとりになりたかったの?」

「……でも、ほんとに遠いとこきたら、知らないとこで、さみしくて、お金も、なくて」

「探したよ、本当に」

「……ごめん」


むぎゅっと、さらに顔を胸に寄せた。

春霞の手が、わたしの頭を包み込む。

冬なのに、春霞の体はとても温かくて、すっかり冷えたわたしの体温をゆっくりと元に戻していった。


トク、トク、と心臓の音が聴こえる。

春霞がここに居る。


わたしは、ひとりじゃない。



「帰ろ、コハル」



春霞の胸に顔を埋めたまま、わたしは垂れた鼻水をすすって、小さくこくりと頷いた。