絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

「はい」
 若い看護師はてきぱきと用意をし、すぐに彼女をキャスター付きのベッドに乗せると、
「じゃあな。俺は少し仮眠をとるから。彼女が起きたら呼んでくれ」
「悪いな」
「仕事だ」
 奴はニヤっと笑う。多分、香月が起きたときの顔が見たいだけだ。
「ありがとう」
 まあ、しかし、今週末の酒代程度で安心な処置をしてもらえたのだから、文句もない。
 その後、香月が大部屋のベッドに移されたのを確認してから、一度廊下に出ると携帯を見た。意外なことに着信はない。そうか、まだそれほど時間が経ってないのか。今店に残っている副店長は仲村と矢伊豆だが、今日は平日だし大丈夫だろう。
 案の定仲村の携帯はすぐに繋がった。
「お疲れ、店、どう?」
『お疲れ様です。はい、暇で(笑)、どうしようかと』
「それなら良かった。まだ帰れそうになくてな」
『ごねてるんですか?』
「いや、実はその客の家でお茶を出されて飲んだんだが、それが酒でな」
『え!?』
 いつもクールな仲村もさすがに驚いている。
「たまたま俺は飲まなかったんだが、今香月は病院で寝ている」
『えー……それは、とんでもない……』
「あぁ。ちょっとな……」
『香月は大丈夫なんですか?』
「気分が悪くて横になってたら眠っただけだ。起きたら帰れるが、とにかく、今から家族に電話して迎えに来てもらう」
『じゃあ、引き渡してから、ですね?』
 それほど居座るつもりもなかったが、そう言ってくれるのだから、そういうことにしておこう。
「そうだな。下手したら夜になるかもしれない」
『分かりました。今日は本当に暇なので大丈夫です』
「微妙だな」
『(笑)、香月に付き添ってやって下さい』
「ありがとう。助かるよ」
 そこで一旦区切ると、次は香月の携帯が鳴る音が聞こえていることに気づいた。布団の中からなので、制服のキュロットに違いない。
 やましい気持ちは一切排除して、無心で香月のポケットに手を突っ込む。