絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

 永作お嬢様の小さな口から出た、信じられない言葉。
「……、ほんとに?」
 香月は目をまん丸にして、永作を見つめた。
「……」
 永作は、少しの白ご飯を上品に口にしただけで何も言わなかったが、その表情が、いつもとは全く違っていた。
「依田さんだったらイケますよ!」
 佐伯は簡単に確信をする。
「うんまあ、軽く落ちるタイプではあるかな」
 香月も勝手知ったるわが男のように、評価する。
「いつも面白くて、明るいですよね」
 弁当を見つめながら顔を赤らめる永作が、あの依田のことをそんな風に思っていたのだと知ってしまったことに、2人は心底驚いて、しばし言葉を失った。
「そう……優しいよね。ジュース買ってくれたりするし……」
 依田に何かいい所があったかと、香月は思い出すことに必死になる。
「えっ?」
 ビックリするほど素早く、永作はこちらを向いた。
「え? あ、いや……倉庫で、喉が乾いたなぁとか思ってると、皆に買ったりするよ?」
 永作に刺激を与えないよう、精一杯誤魔化す。
「あ、私も買ってもらったこと……あったような気がする……。けどあれは依田さんじゃなかったかな……」
 佐伯も言いかけて止まらなかったのだろう。なんとか濁している。
「私も、倉庫行きたいな……」
 まさかこんなに綺麗なお嬢様があの汚い倉庫に行くだなんて、いや、行かせることなんかできないと思うのだが。
「いやあのその、いや、あのー、まあ……、そうだね。あ、そっか……」
「香月先輩、動揺しすぎ(笑)」
「いやいや、違うの。フリーの私と交代なんかしたら倉庫いけなくもないかなぁって瞬時に考えてたところなのよ!」