あり得ない客の態度にさすがの玉越もこちらに驚いた表情を見せた。
 泣きそうだった。こちらもそれを訴える。
「あ、では……。香月さん、確認したんですよね?」
 さすが十年選手の玉越。この状況でも仕事は怠らない。
「あ、はい。20万ありましたので……」
「俺も数えてるから心配しなくていいよ」
 井野は香月だけには優しく話しかけた。それが余計に、レジを打ち込む手をいっそう早める。間違えていたら、後でやり直そう。
 最後はきちんと自動ドアまで見送りに行った。そうしないとまたあの恐ろしい形相を見せそうで怖かったからだ。
「ありがとうございました」
「よかったよ。また来るから、指名してあげるよ」
 という言葉を残し、最初の内向的な印象とは全く別の人物が見えた気がした。
 所要時間、80分。実に長い接客だ。
 その間、ほとんど仲村が気にして近くにいたことは言うまでもない。
「ふぅ……」
 レジまで帰ってくると、仲村と玉越が話しをしていた。多分さっきの「しっし!」を報告しているのだろう。
「伝票、ちゃんとできたか?」
「多分。急いで打ったから……」
「見せてみろ」
 仲村は一枚の長い伝票にしばらく目を落とす。
「うん。まあ、いいだろう。上げ換えはしなくていい。ただ、追加で工事内容もっと詳しく書いた方がいい」
「うっわー! すごい! あんなに急いだのに!」
「なんかちょっと怪しい感じだったな。初めての客か?」
「相手は電池の接客を受けたことがあるって言ってはいましたけど、全然覚えていません」
「気をつけておくよ。井野か」
「私も気をつけとく」
 ガードの堅い玉越がそう言ってくれると、ほっとする。
「あ、そうだ。それが済んだら、返品を集めてきてくれないか?」
 仲村は、腕時計に一度目を落とすと、手にしていた井野の伝票をカウンターの上に置いた。
「分かりました」
「AV小物コーナーだ」
「はい!」