絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

「うーん、一般的にぃ……」
「この店舗の中だと、多分一番人気あるのは西野さんだよね?」
 香月は、2人に確認した。西野誠二とは香月、佐伯と3人でつるむことも多い、気の知れた仲間だ。年も若く20代半ばの、利発的で店内売上ベスト3に入っていることが普通である店長からの信頼も厚い、会社にとっても貴重な存在の人物である。
「え、そんな話聞いたことないですよ?」
 佐伯はすぐに否定する。
「そう? 何回か聞いたことあるからてっきりそうなのかと」
「それだったら、数の多さだったら。普通に格好いいとかいい感じっていうのだったら、圧倒的に矢伊豆副店長じゃないですか?」
 矢伊豆と香月はあまり関わることがない。ほぼ近くを歩いているのを見たことがあるくらいだし、そういえば下の名前も知らない。しかし、彼が年のわりに格好いいと若者の間でもてはやされているのは十分承知している。主婦層の間でも、抱かれたい店員ナンバーワンであることは有名だ。
 少し長めの前髪が上手に後ろに流され、切れながの目、暑い日でも徹底した長袖、時折、帰りの時間帯などに見える、ワイシャツの襟元の中の厚そうな胸板。
 男を常に評価し続ける文句の多い玉越よしえ29歳が、「まあ、いい方」と珍しく納得した男でもある。
 一言でいえば、セクシーなオヤジ。確か年は40を過ぎていたと思うが……。
「うーん、あれはなんか数には数えないような……」
 香月は宙を見ながら呟いた。
「ひどい(笑)」
 佐伯もそう言ってはいるがしっかり笑っている。
「いやなんか、どう言えばいいのかな……。え、まさか、矢伊豆副店長?」
 香月は久しぶりに永作に話を振った。
「何ですか?」
 日本人形のように、さらりと長い黒髪を揺らして小首を傾げる。
「矢伊豆副店長、格好いいと思う?」
「悪くはないと思います」
「うーん、まあねぇ。悪くはないか」
「悪くはないですよね、確かに」
 佐伯も納得する。
「けど、依田さんも結構いいと思います」