絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

 なんだ、割と元気なんじゃん。
「ね、もうどいて」
「嫌だ」
「あのさあ……。まだ好きならそれこそ結婚式で奪えばいいじゃん。勇気いるだろうけど」
 確かそんなCМがあったはず。
「もうついてこない」
 わかってんじゃん。
「じゃぁもう忘れよう」
「忘れられない」
「そんなことない。忘れられる」
「忘れさせて」
 ……。
「あいにく私はそんなのに付き合ってる暇はないの。忙しいんだから」
「ツアーに連れて行く」
 落ち着いてきたのか、あえて耳の後ろで囁いてくる。
「ッ、やめてよね!! もういい加減」
 ついに香月は体を大きく捻って、その腕から離れた。
「……バカバカしい」
 服の着崩れを直しながら続けた。
「誰でもいいなら他でやってよね。そういうの、一番嫌い」
 そう言って、ベッドから降りる。
「……誰でもよくないならいい?」
 ドアを開けるまでの3秒、とりあえず頭を回転させた。
「嫌」
 その一言だけ放つ。そしてそのままユーリの部屋のドアをノックした。
「どーぞー」
 入っても、ユーリはMac相手にデスクにひじをついて全く動かない。
「ちょっと待って……ね」
 右手の人差し指と手首が忙しく動く。何のサイトか分からない画面が次々閉じられていく。
「はい……どしたん? レイは?」
「……」
 何をどう説明しようか迷う。
「え?」
 ユーリはようやく椅子を回転させてこちらを向いた。
「私、引越ししようか?」