絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

「……」
 頼むよほんとに……。
 首筋に冷たい雫が落ちてきた。体が少し、震えている。
 もうほんとに、頼むよ……。
「泣きたいのはこっちだよ」
 どうしてくれるよこの信用。最低男のレッテル貼らなきゃじゃん。
「ちょっともうどいて。重い」
 って言ってんのにそのまま抱きしめて体重をかけてくる。
「もう、さあ……。ショックなのは私の方だよ」
 レイジは何も言わない。
「しかも重いし」
 静かに泣くなら一人で泣いてほしい。
「電話かけたら?」 
 また無言。
「じゃあ、アドレス削除しよう」
 意味が分からないが、その腕に力をこめてくる。
「苦しいし。あのさあ……。ほんと、警察沙汰だよ、この様」
 低くしゃくっている。
「もうさあ……。あのー、ショックなのは分かるけど。もう仕方ないんだから。だからってこんなことするのもやめてほしいけど。
 というか」
 レイジが無言なのをいいことに、とりあえず喋る。
「他にいるでしょ? たとえばファンとか。そこでこう……慰めてもらえばいいじゃん」
「いない」
 やっと喋った。
「あぁそう」
 なんで私がいる方の一味に入ってんだ。
「あのさあ、謝るようなことはしないでよね。いや、これはもう半端なくあれだよ。全部ダメになりそうな勢い」
「ごめん」
「だーかーらー。先キスしちゃったらせめて、前からスキだった、くらいのセリフは前もって用意しといてほしいよね」
「前から……」
「いや、言わなくていいから」