絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

「あほかぁ!」
「私からお誘いしたんです」
 場が、ではなく、レイジ一人が固まった。
「……何で?」
「飲みたかったし」
「誰でもよかったの?」
「そういうわけでは……」
 ここからはレイジの体のせいで彼女の表情は全く分からないが、レイジが何を言いたいのかさっぱりだ。
「なんやなんや」
 問い詰められる彼女を逃がそうと、割って入ることにする。
 彼女が言葉を探している間に、店員はタイミングを計ったようにバーボンをコトンと置いた。
「ふぅ……」
 レイジはそれを一気に飲み干す。
「帰ろう」
「え?」
 2人同時に発した。
「私はまだほとんど飲んでません」
「家帰って飲み直せばいい」
「強引やなあ……」
 やっぱり同居人というより、多少スキなんか……。
 こんなことならさっさと頂いとった方が良かったかな。
「……ユキトさん、すみません、お誘いしておきながら」
「愛ちゃんは謝らなくていいから。ユキには後から俺が謝る」
「はあー、へいへい」
 レイジがそういう風に強引なのも珍しい。複雑な心境のせいだろうが、やはり彼女にそれだけの想いがあるのだろう。
 実に忙しい男だ。
 と、見ると2人が見詰め合っている。というか、彼女が睨んでいる。
「私はユキトさんと飲みたくて来たんです。けど、レイジさんが帰るって言うから。心配だから一緒に帰ってあげた方がいいと思って帰るんです」
「いや、ええよ、別に」
 言うねぇ。
「話は帰ってからにしよう」
 レイジはさっさと店を出ようとするが、こういう女は魅力的だと年甲斐もなくドキドキする。
「俺、払っとくから。はよ帰り」
 精一杯の恰好つけたセリフがそれ。
「すみません。あの……」
 彼女はしばらく目を伏せる。