次に隣の優を見ると俯いていた。すぐに、リーマンが
「帰ろう」。
 それぞれが言葉を選ぶ間に、勢いよくユキトが、
「誰やねん、あんた!?」
 次にレイジがスーツを睨んで口を開いた。
「誰?」
「優の婚約者です」
「えっ!?」
 大声を出したのは香月だけだった。自分の声の大きさに、というか、他の誰も声を出さなかったことに驚きながら、口を手で抑える。
「ちょっと……ここじゃなんだから、表出てくれる?」
 レイジは立ち上がった。
 だがリーマンはそれには答えずに、
「表に、お母さんが来てるよ」
 驚いたことに、優は黙って立ち上がった。
「ゆ……」
 レイジが言うより先に、彼女はリーマンの方へ足を踏み出す。
「優!」
 レイジの声が空しく響く。
「できれば、表には出ないでほしい。お母さんが迎えに来ているんだ。……」
 リーマンは隣に来た優に視線を落とす。
「先に出て。玄関に横付けしてる」
「……」
 優は一度もこちらを見ないまま障子の外へついに出てしまう。
「今、君が行ったら、優が可愛そうだから。今日、お父さんがここへ来なかっただけでもまだ良かった」
「……」
 レイジは絶句し、座ったたまま動かない。だが、目つきは誰よりも険しかった。
「僕は、あなたと優のことはずっと前から知っていました。
僕は……。優のお父さんからこの結婚話を頂きました。だけど優は、本当はそれが嫌だったのかもしれない。
 だけど、結果的にはオーケイしてくれたから……。
 もしかしたら、まだあなたのことを好きなのかもしれない。長く付き合っていたようだし。だけどもう、来年には式も挙げる予定だから。今はもう、全部終わらせてほしい」
 第三者から言わせてもらえば、もうすでに全部終わったのではないか。
「……納得いかない」
 レイジは目を閉じたままつぶやく。
「……。優のことを、優の家族を思いやってほしい。僕の家と彼女の家が統合することで、事業はより良い方向へ進むし……」
「……納得いかない」
 レイジは同じ姿勢のまま、同じことを繰り返す。
「……。君が納得いかなくても、もうこれは終わったことだから。けじめをつけてほしい。婚姻届は既に、お父さんに渡してある。もう、僕の妻も同じだから。手を出すことは許さない」
 今のタイミングなら、リーマンの顔をよく見てもいいだろうと、香月はまじまじと見た。
「……」
「それでもどうしても納得できないなら、お父さんに承諾をもらってくれ。僕達の離婚と、優の再婚を祝うという、承諾を」
「……」