冷静に見れば、彼女の雰囲気が意外だと思えてくる。あのクールでロックなレイジの傍にいるわりには、必要以上に普通であった。ロックスターの彼女ならば、同系の、金色で真っ白で真っ黒で真っ赤である方が自然な気がしていたが、彼女は、茶色でピンクでベージュな柔らかな、真っ赤な感じとは無縁な感じだった。
 しかしながら、このタフそうなレイジだと、まあとにかく手当たり次第というかその場限りというか、とにかく不特定多数なのかもしれない。ああやって、ルームシェアしようといわれれば、たいていの女は堕ちてしまうだろう。……それが自分だと信じたくはないが。
「初めまして」
 「ゆう」はにこやかに笑んではいるが、彼氏が自分と同じくらいの年の女の人と同じ家で住んでいるなんて、内心腸が煮えくり返っているに違いない。
 これは、褌しめてかからないと。
 そしてここからおかしな飲み会が始まった。参加者は、レイジ、その彼女 、同居人の香月、そしてバックバンドのユーリ、髪の毛の長いキレイなオジサンのユキト、鶏みたいな派手な髪型のジュンイチ。
 メンバーが揃うなり、今夜は早めに帰ろうと決心する。
 鍋屋の座敷の席順は、上座から、レイジ、その彼女、香月、レイジの前がユーリ、その右隣がユキト、その隣がジュンイチ。というか、せめてもっと席順考えてよ。私の周り知らない人ばっかりじゃん。
 乾杯の後、6月末の季節はずれのキムチ鍋を皆でつつく。クーラーは最低温度に設定されていたが、湯気と辛さと熱気でエコ温度くらいにしかなっていない。
 隣の優は、レイジからいたれりつくせりの愛情を受けながらにこやかに微笑み、談笑していた。そして時々レイジの手が腰に回り、顔が近づき、なんかもう何の会!?と、呆れ半分で、とりあえず食事のみを楽しむことに専念しようと心がけるしかなかった。
 何に負けじとしているのか、正面のジュンイチはひっきりなしに話しかけてくるし。好みじゃないしなぁって、なんだか失敗した合コン気分でほとんど飲まずにいた。
 12時になったら先に帰ろう。そう決めて腕時計を見はかり、後5分まで迫ったとき、突然障子は勢いよく開いた。
 スパンと、そりゃあもう気持ちいいくらいに。 
 ある程度酔っていた全員の視線がそちらに集中する。
 仁王立ちしていたのはスーツの男だ。メタルフレームのメガネと無難なネクタイが金融系のリーマンを予想させる。多分、そう遠くはない。
「ゆう」
 5人の視線がそれぞれに向いた。
「え?」
 ユーリは自らを指して目をぱちくりさせる。