絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

 レイジに誘われて始めたルームシェアももうすぐ一年になる。溜息が出るほど、いろいろなことがあった。それを思い出せば、実家で腐っているよりはずっと良かったのかもしれない。
 考えているうちに太ももの頭が重くなってくる。
 香月は起きることを承知で頭をソファに置いたが、レイジは何のリアクションも示さなかった。薬が効いてきたのだろう。足元にあった、毛布をきちんとかけてやる。
 芸能人と睡眠薬……それがいつか、麻薬に発展したりするのだろうか?
 それでも、これほどまでに家に帰って来られなくて、スケジュールをこなしているのなら、それも仕方ないのかもしれない。薬に頼りたくもなるのかもしれない……。
 自室に入ってようやくドレスを脱ぎ、バックの中のデジカメを確認してみる。
 よかった、永作が綺麗に写っている。これは印刷して、ボードに張っておこう。それくらい日常とはかけ離れた価値があるものである。
 印刷の準備をしていると、リビングで物音が聞こえ始める。ユーリが帰って来たようだ。
 香月は自室から少し顔を出す。
「今日の総会どやった?」
 ユーリは、ニット帽を脱ぎながら笑顔で聞いた。
「あー、ドレスが安物って馬鹿にされたよ」
「ハハ、残念やったな(笑)」
 前日、これ、いけてると思う? と既に買ってどうしようもなくなった、まあまあ満足したドレスをユーリにだけ見せていた。彼は「えんちゃう」とどうでもよさそうな返事と笑顔だけを返し、この人に聞いたのが間違いだったとただ、再確認させられた。
「7万って普通の人にしたら普通の金額じゃんねー」
「まあね。どんな人に安物って言われたん?」
「……、お医者さん」
「金持ちは違うんよ。普通の人とは」
「なるほどねー」
「どうせなら、じゃあいい物買ってよ!! って言わんと(笑)」
「なるほど……」
 言えないだろうな、榊には。例えば、家が欲しいといえば、貯金の1千万で手ごろな物を……用意しないか……。