絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

「というのもあるし、本当に来れるかどうか分からなかったからな。一応日本には来れたものの、用事もしたいと思ってたし」
「……用事……」
「一週間はいるよ。講義とか、色々」
「講義?」
「あぁ、まだロンドンに行って一ヶ月しか経ってないのにそれを議題にって、頭が痛いよ(笑)」
「……」
「愛?」
「突然で……」
「悪い、やっぱり連絡しておけば良かったな」
 優しく、こちらを見つめながら、目を細めてくれる。
「お話の途中ですが、すみません」
 宮下は突然割ってくる。
「お車で来られていますか?」
「いえ、大丈夫」
「車上荒らしがあったようですので。もうじき放送が流れるとは思いますが……」
 宮下はイヤホンを聞きながら話しをしているようだ。
「あ……この、こちらの方は宮下店長で……」
 紹介なんてする必要あるだろうか、考えながら続ける。
「はい、東都本店で店長を務めさせていただいております、宮下と申します」
 宮下はすぐに名刺を出す。
 続いて彼もさっと胸ポケットから名刺を出した。
 ちらりと盗み見る。英語だ。ロンドン用だろうか。
「初めまして。榊と申します。ロンドンのブリテンホスピタルに勤めております」
 2人は紳士に名刺を交換する。香月は、それを待ってから、ようやく口を開いた。
「榊……先生、どこに泊まっていらっしゃるのですか?」
 しまった!! 質問を間違えた!!
 榊先生と言った意味がない!
 だが榊は顔も変えず、
「国際ホテル。明日は講義で、明後日が病院。その次が一日空いてる」
「どこか、行きません?」
を言ってもいいものかどうか必至で迷いながら隣を伺う。
 あれ……
 既に宮下はいない。
「とっくに行ったよ(笑)。なのに榊先生なんて言うから可笑しかった(笑)」
「そんな顔、全然してなかったじゃない」
 香月はふてくされて、そっぽを向いた。
「いや(笑)」
「明々後日……私仕事だ。休もうかな……」
「ちゃんと行った方がいい」