絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

 彼女は上機嫌で、既に等分に切られたピザの前で待っている。
「なんで今日は飲まないの? そんな毎日飲んでないの?」
「そうだよ。毎日飲んでたら多分体がもたない」
「どうして?」
 テレビは相変わらず煩いコメディが流れていたが、一瞬でも空気が静まるよりマシだ。
「飲んで仕事できるほど器用じゃないから。仕事する日は飲まない」
「ふーん……。あ、これ美味しい! やっぱ本場のピザは違うね♪」
 ピザの本場はロンドンではない。それを言おうとしてやめる。
「美味しいなら良かった(笑)」
「うん、あ、そういえばー」
 何を紙袋から出すのかと思えば……。
「パズル?」
「うんそう。これね、あの雑貨屋のおまけかなあ、袋に勝手に入ってたの」
「ふーん」
「でね、これを、こうやって枠に収まるようにはめ込んでいくの」
 どうやら木枠の中に、木の破片をうまく埋め込む、ノーマルパズルのようである。
「えー、これ本当に入るのかなあ?」
「見せて」
「できる? 久司は頭いいから、すぐにできそう」
「……」
 そう言われちゃやらないわけにはいかない。
 だが木枠は想像以上に難しく、珍しく頭を悩ませる。
「このテレビって面白いの? なんか笑い声がよく聞こえるけど」
 彼女はすぐにパズルなどどうでもよい雰囲気だが、なんとなく解けそうで解けないのでつい維持で考えこんでしまう。
 テーブルの隅に木枠と木片を並べ、オレンジジュースも忘れて腕を組んで思考を集中させた。
 そうだ、タバコを吸おう。
 思いついたと同時に、書斎のデスクに一箱まだ新しい物があったことを確認していた。
「あー、まだ吸ってたの」
「いいや……」
 実に一ヶ月以上ぶりの喫煙。
 一口吸うだけで眩暈がするほどの浮遊感。
 ソファにもたれずにはいられない。
 禁煙していたわけではない。
 ここに来てからストレスはあるものの、ニコチンなしでも十分抑えられる程度の心地よいストレスであった。
 それを象徴する眩暈である。