絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

「じんとくるね……」
「……」
 こんな沈黙は、嫌。
「ねえ。ランチにしようか?」
 それから、すぐに近くで早めのランチをして、ブランド街に買い物に行った。彼は終始高価な物を薦めてきたが、お金がないと断った。断る度に、せっかくだから土産にと、カードを出そうとするので、
「自分もお金ないって言ってたじゃない(笑)」
「土産を持たせるくらいの金はあるよ」
「貯金どのくらい?」
「今は車買ったから500万くらい」
「すごい。月どのくらいもらえるの?」
「今は200くらい」
「日本でだともっともらってた?」
「逆、半分だよ」
「それでも100万もらってたんだ……」
「がんばればまだまだ伸びるさ」
「100万あったら私ならもうがんばらないかも」
「(笑)。頑張れば3倍にはなるよ。なら頑張ってみようと思うだろう?」
「まだ若いしね……」
「これからだと自分では思ってる」
「うん、私もそう思う」
 午後2時にどうにかひと段落ついてカフェに入る。なんだかんだで買い物をした。もちろんそれはブランド物ではない。だがそれでも大半は榊が買ってくれたものだ。雑貨屋のどうでもよい小物やら、安いスカートやら、ティシャツやら。合計すると3万もしない。でもまあ、そのくらいの金額なら、毎月これほどの稼ぎがあるのだから、まあいいかと思ったのだ。
「久しぶりに若返った気がしたよ」
 榊はホットコーヒー片手に笑顔を振りまく。
「そう? 普段はこんな安いお店行かないから?」
「もうしばらく行ってないよ。だって、愛に出会ったとき、既に俺は30近かっただろ? もうその頃からだよ。やっぱり一緒にいると年の差を感じるな」
「……それっていい意味?」
「うん、いいんじゃないか? 刺激を感じるよ」
「そう……」
「飛行機までもう少しだな」
「……帰らないとだめ?」
 榊は一旦停止してから、こちらを見た。
「帰らないつもり?」