絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

 相手が榊ならなんでもこいだ。
「え、これ?」
 どうして言いたいことが素直に言えるのだろう。
 彼は驚きながら、とりあえず駐車場から出て大通りを走る。
「あー……免許……」
「公道走らなくていいよ」
「いや、日本では基本的にペーパードライバーじゃなかった?」
「えー? いつ?」
 香月は可笑しくて笑う。だって彼は私が大学生の頃しか知らない。
「確か大学生の頃……今は毎日乗るようになった?」
 鋭い。
「あぁ(笑)。最近は、車もらってからは乗ってるから大丈夫。ちゃんと左ハンドルよ」
「えーと……もう少し行ったらだだっ広い駐車場があるから。そこで乗ってみる?」
「うん」
「……観光とかしなくていい?」
「え、観光?」
 香月は笑いながら続ける。
「そんなのいつだってできるわ」
 ロンドンで観光なんていつだってできる。だけど、榊のこの車を運転するのは、もう今日じゃないとできないかもしれない。
 とりあえず駐車場に着いたので運転をしてみることにする。
 席を交代して、いざギアをドライブに。あぁ、感覚が少し変だが、こんな広い場所くらいでなら十分に運転できる範囲である。
「結構うまい?」
「まあ……けど、日本車で普通に運転できてるんだろ?」
「そうだけど!」
「どう?乗り心地は?」
「うーん。まあまあ」
「まあ新車だからな。悪くはないはず」
「へー、これ新車なの」
「慰謝料やなにやらで結構とられたから中古にしようか迷ったけど、やっぱり車くらいは……。独り身だしどうにでもなる」
「……結構大変だったんだ……」
「まあな……作るより壊す方が簡単だけど、後片付けが大変だ」