絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

「寝る(笑)。ソファでな」
「あ、コンタクトのケース持って来てない……」
「水でいい?」
「うん、コップに入れてきて。2つ」
 榊はそのまま出るとすぐに戻ってくる。
「はい」
「ありがと」
 彼は布団もかけずにすぐに寝室から出て行く。
 目の前の枕からは、少し洗剤り香りがした。自分は榊の匂いなど、知りはしない。
 もし、今嗅いでいる匂いが例え、皮脂の香りであったとしても、記憶の何とも照合することはできなかっただろう。
 本当は、榊の何も知らない。
 6年の空白ではない。
 もしかしたら、初対面に近いのかもしれない。
 それをもちろん寂しく思ったが、今はそんなことより、ただ瞼を閉じて意識をなくしてしまいたいくらい疲れていた。
 
 尿意で目が覚めた。遮光カーテンのせいで時間ははっきり分からないが、まだ明るい。
 何時だろう。メガネをホテルに置いてきてしまったせいで不便だ。
 仕方なく、まずコンタクトを入れて目覚まし時計を確認する。
 午後5時前……。
 寝すぎた。
 寝室から出て、榊を探す。
「おはよ」
「あぁ……」
 榊は書斎でパソコンに向かっていた。仕事中なのだろう。
そのままドアを閉めるとテレビの電源を入れて衛星放送に切り替える。
 見たい映画など何もなかったが仕方ない。アクション映画に再び決定するととりあえず何か飲もうと冷蔵庫を開けた。
 ……アルコールと水、多少の調味料らしき物しか入っていない。
 インスタントコーヒーならあるかな、と探そうと思ったが億劫になって、水だけ少しコップに注いで飲む。
 温かいココアでも欲しい気分だったし、おなかも空いていたが仕方ない。
 またソファに戻ると今度はそれとなく映画を見始めた。
 それから一時間は待っただろう。
「あ、終わった?」