絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

「なにその笑い……」
「どうしてレイジさんは私を誘ってくれたんですか? まあ、レイジさんってプライベートの時間あんまりないからでしょうけど」
「そういう運命に生まれたんだよ、僕たちは」
「……あの」
「何? 今の面白くなかった?」
「いえ、そのことではなくて」
「何?」
「私、ロンドンに友人がいるんです」
「友人……」
「で、レイジさんと一緒にロシアへ行って、その足でそのままロンドンへ行ってもいいですか?」
「どういう意味?」
 レイジの表情は険しい。
「だから……、飛行機でロシアへ行って、そのままロンドンへ行く。で、多分一泊するかしないかだから、そのままロシアへ帰ってくる」
「……何で?」
 その視線は冷たい。
「せっかく休みとって旅行行くんなら……と思って」
「……友達ならいつでもいいんじゃないの?」
「いえあの……。前、話してた人です」
「……昔の人?医者の?」
 昔の人……。
「いえ、今の人です」
「今の人? また別の人?」
「彼、離婚したんです」
 香月は真剣な表情をするのが怖くて、終始笑っていた。だが反対にレイジはそうではない。
「この前、忘れることにしたんじゃなかったの?」
「……その後……偶然電話がかかってきたんです、その時、離婚したって」
「忘れないの?」
 レイジの疑問は正しい。
「……今は……」
「……その人、どうして離婚したか言ってた?」
「仕事が……病院の経営じゃなくて、その、今は奥さんの父親の病院だから、離婚して海外で研究がしたいって」
「……ふーん……」
「今はやっぱり忘れられないんです。彼と、結婚したいとかそういうんじゃない。ただ、今は忘れられないだけなんです」
「いいようにされるかもしれないよ、言い方悪いけど」
 さすがの香月も神妙な顔つきになる。
「私は、大丈夫です。帰ってくる家はここです。まだ仕事もしたいし、今は……、ロンドンに遊びに行きたいだけなんです」
「……どうだか」
 レイジはそっぽを向いて、息を吐いた。
「……抱かれたいとか……そんなんじゃないんです……。ただ、多分、昔の綺麗な思い出が忘れられないだけなんです……」
 レイジはしばらく目を逸らして考えていたが、ようやく口を開くと、
「せっかく2人きりの旅行なのに」