絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

 そこから先は店が並んでいる。歯科から始まり、パン屋、本屋、カフェ……。
 この時間なら、かなりの確立で本屋。
 迷わずに、自動ドアが開く時間ももどかしいほどに、本屋へ入る。まさか漫画コーナーではない。雑誌か、専門……。
 ぐるりと店内を見回そうとしたその時、相手がこちらを見ていて驚いた。
 もちろん一時停止してしまう。
 彼は既にレジで会計をしていた。買った本は既に袋の中に入っていて、何が中に入っているのかは分からない。
「……今日休み?」
 榊は何にも動じていないのか、そのままお釣りを財布にしまいながら、本を手に取りこちらに話しかける。
「え……あぁ……」
 彼が近づいてくる。仕事の合間なのか、スラックスにワイシャツだ。
「……」
「え?」
 何か喋ったが全く聞き取れなかったので聞き返した。
「え、ち……」
 顔を見ながら話をしていれば彼の異変にすぐに気づいただろう。
 チャリーンという小銭が床に落ちる音がする。
「あ……」
 それに続いてすぐに本が落ちたことが分かった。
「え、ひ……」
 久志、という名前すら声に出ない。それは彼の体重の重さに耐え切れなかったせいではない。
 少し触れた首筋が驚くほど温かかったからではない。
「お、お客様!! 大丈夫ですか!!??」
 隣にいた店員が大きな声で叫んでいる。
「き、き、救急……、救急車、呼びましょうか!?!?」
 救急車……。
「お、お客様、救急車! 救急車!」
「え?」
 ようやく、榊が乗りかかって床に座り込んできてしまった自分に話しかけているのだということに気づく。
「あ、はい……」
 女は40過ぎか、慌てて立ち上がるとすぐにレジの方へまた入っていく。
「ひさし? ……ひ、ひさし?」
 榊はこんなに重い。全然知らなかった。
「……う……」
 ちょうど肩に榊の頭が乗った格好になっていたので、どんな表情をしているのかは全く分からなかったが、とりあえず床に沈んでしまわないように、背中だけはしっかりと掴んでいた。
「お客様!! すぐに救急車が来ます!!!」
「す、すぐ……」
「……眩暈……」