そして当日。上がりこんだマンションは、東京マンションに住んでいるからこそ、うちと似ているとスルーしてしまったが、隣の佐伯は、家中の隅から隅まで舐めまわすほどの観察ぶりだった。
「私の中で一番のマンションは宮下店長の家でした」
 と、最初に発したが、確かに、それを超えているインテリアのセンスではあった。一等地だけに、家賃も超えてはいるだろうが。
「さすがパイロット」
 これは何度も小声に出し、佐伯的に納得していたが、何をどう納得していたかは全く不明。 
 かくして、メンバー全員がそろい、また、女性陣はきらびやかなお姉さま達ばかりで、その中の1人と佐伯が仲良さげだったが、それもどういう関係か分からず、居心地の悪い会は慣れた人たちによって、スムーズに流れていく。よくは分からないが、とにかく席替えというルールがあったり、王様ゲームというゲームをしたりでわいわいがやがや時は進んだ。ゲームでは特に中心にいなかったせいでどうだったのか全然よく分からない。
 ただ、そんな中で、一人落ち着いた男性がいた。
 名前はすぐに覚えた。三島智樹、年齢は30歳。最初の自己紹介のときに年齢もすぐに覚えた。
 彼はとくに女性を狙っているわけではなく、自分と同じように仕方なく会に連れられてきたという印象であった。
 全員酔っていた。
 という言い訳は通用しないだろうか。
 香月は彼をベランダへ連れ出してキスをした。
 細かい経過は思い出したくないので忘れたことにする。それを偶然見られてしまった一人の男性に始まり、こうやって佐伯とお茶なんかしばくことになってしまったのだが……。
「……付き合ってって言われたけどねぇ……」
「相手からキスしたんですか?」
「いや……酔ってたからなぁ……あんまり詳しくは覚えてないけど……」
「意外にやりますね、香月先輩」
「なぁにが。そっちこそどうなの?」
「ぜーんぜん。また連絡するからってそれっきりですよ。まあ、こっちも追いかけるほどの相手じゃないからそのんまんまですけどね」
 と言われても、相手という男がどこのどんな人だったかはさっぱり覚えていない。
「あ、秋人さん!」
「よぉ」