「実にそうです」
「……悲しい、ですよね……」
 外を見ながらぼそっとつぶやく彼女に、
「僕はそうは思いません。好きな人に好きになってもらうようにするのは大変なことですが、大切なことです。それで自分は成長できると、よく思いますよ」
「……」
 彼女はこちらを向いたが、よほど心に響いたのか何も言わない。
「自分が、好きな人を好きにさせるのです」
「……」
 彼女はそれ以降何も喋らなかった。
 今気になっているという男のことを忘れさせようと、つい頑張ってしまったのを見破られたかとその一瞬は思ったが、後々考えてみるとそうではなく、たぶん、その男のことをずっと考えていたのだと思う。
 なかなか、すんなり物にできる相手ではないなというのが第一印象だ。特に、今近づいている男だって、そんじょそこらの男ではないだろう。
 しかし、自分だって負ける気はしない。ここまで、自分の力で昇ってきたのだ。ここまできて……。
 負けてたまるか。