絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

 だるい体に鞭打って起きる。廊下には香月が一人で立っていて、こちらが足を踏み出しても彼女は動こうともしない。何か話しがあるのだと直感した。
「……大丈夫か?」
 その小さな顔を覗き込む。
「……はい」
「少し、痩せた?」
「……どうかな……体重、量ってないです……」
「皆、ゲームで盛り上がってるみたいだな」
「あ、はい……。吉原さんが一人で作ってくれました」
「マメだなぁ……」
「今日は、突然押しかけてしまってすみませんでした」
「いや(笑)、言い出しっぺは香月じゃないだろう?」
「いえ……私、です」
「え? そうなのか?」
「私、ずっと会社のことを忘れていて……それで、宮下店長が休んでいるって聞いて心配になったんです」
「……そうか……ありがとな」
「いえ……すみません、突然で……」
「まあ、電話くらいは欲しかったが(笑)」
「それは、西野さんが……突然の方が面白いって」
「ああ、分かるよ(笑)。まあ、こんなこともなかなかないしな。嬉しかったよ。煩いが」
 時々佐伯の、「きゃっ!!」とか「わ」という声が室内に響いている。
 香月は少し俯いて笑った。
「さ、食べに行くか。何ができてる?」
「和食です。ご飯に味噌汁、焼き魚」
「いいね……。お、いい匂い」
 廊下を出ると、匂いだけで分かる、料理の腕前。
「すごいなあ、吉原。家でも時々やってるのか?」
「まあ……」
 その手は既に茶碗に飯をついでいる。
「久しぶりだよ。米炊いたの」
「もったいないですね、こんないい釜なのに」
「(笑)、全然元とれてない」
「これ、いくらくらいするんですか?」
 香月の質問に吉原が
「レギュラープライス15万。割引後12万」
「え、うわー、すごい。私の給料の半分だ」
「炊かなきゃ意味ないな」
「米、まだありますから、また炊いてください」
「……洗うのが面倒なんだよなー」
「けど無洗米はやっぱり味が落ちますよ」
「だなぁ……」