絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

「じゃぁ……あ、今からでもいい?」
「え、あ、やー……」
「良かったら、同伴付き合ってくれたら嬉しいかな」
 同伴って……確か、一緒に店に行くことだっけ? 多分彼は本気で喋っているのだろう、笑ってはいるが頭は本日の予算を算段しているようにも見える。
「あ、まあ……」
「いい? 別に、そのまま店に入ってくれればいいだけだからさ。今日は飯ももう済んでるし。ハーツも初めてでしょ?」
「あ、はい」
「なら最初は2000円で飲み放題だから。ぽっきり」
 まあ、それくらいの額なら、とも思う。
「分かりました。それでいいです」
「よっし、じゃ乗って?」
 もし、その店が2000円じゃなくて、大変なことになったらどうしよう……。
 内心、思わないわけでもなかった。だけど、ここまで来たら行かない以外の道はない。……と、思う。
 中は車の匂いではなく、彼自身がつけている香水の香りが充満していた。綺麗な車内である。物が何もない。
「ホストクラブ、初めて?」
「いえ……何度かはあります」
「どこ? 店の名前は?」
「ダンディ」
「あぁ、はいはい、超有名店」
「友達の友達が行っていたので……」
「ホストの名前はイッセイ?」
「はい」
「超どんぴしゃじゃん! まあ有名だからねー」
「そうですねぇ……」
「テレビとかに出てるの、知らない?」
「まあ……」
「実は俺も出てるんだけどなー」
「えっ?」
 しまった、リサーチ不足。
「これでも結構売れっ子なのよ」
 少し視線を感じた気がしたのであえてまっすぐ前を向いて。
「あ……すみません……」
 知らなくて、は余計だろう。
「今日から知ってね、よろしこ♪」
「……」
 ドンペリ入れてとか言われたら、どうしよう。そんな持ち合わせはない。2000円だって実はぎりぎりだ。普段カードは持ち歩かないので、現金2000円と小銭が今日の全財産であった。