「今……。私は本当に好きな人がいません。だけど、レイジさんのことを好きにならないのがどうしてなのか、それも分かりません」
「……うん」
 レイジはうな垂れて肩に頭をもたせ掛けてきた。
「でも、時間が経てば変わるかもしれません」
「うん……」
「しっかりしてくださいよ、こんな小娘相手に(笑)」
 ホントそうだ。
 彼は子猫みたいに頬を摺り寄せて、何も言わない。
 もう、香月も何も言わなかった。言うセリフが思いつかないからだ。ただ、頭の中ではあるひとつのことをぼんやりと考えていた。
 多分、今の彼の中の恋愛の中で、今が一番美しい瞬間だと思う。
 人生のうちで何度となくある恋愛のうちで、今が一番美しい時。きっと、彼のように煌びやかで、お金持ちで仕事ができる人を世の中は放ってはおかない。女性ならなおさらだ。この身の回りが続けば状況も同じだろう。
 そんな中で、この人をこれほど拒むのは、自分くらいだろうと少し思っていた。ゆらりともよろめいて魅せないのは、少し好きだからと自覚しているからかもしれない。
 だから、
 今が一番いい時。
 2人にとって、今が一番いい時に違いない。