青年と呼ばれなくなって久しいわけだが。

 そんな俺が今立っているこの場所は明らかに黒づくめの男がうろうろするには不釣合いな、クマやらウサギやらのぬいぐるみがひしめく店の中だった。

「なんだって俺がこんなところに……」

 せめてもの救いはそこに誰もいないということだった。

 そう──“誰1人として”。

 客がいないだけに止まらずBGMもなければ店員もいない上に店内の明かりすら点いていない。

 それもそのはず。

 深夜0時を過ぎているのだから。

 つまるところ、俺はこの場所に“盗み”に入っているのだった。

 慎重に、不用意に外へ光がもれないように慎重に手元のライトをぬいぐるみの群れに近付ける。

 監視カメラはない。

 ついでにいうならセキュリティも何もない。

 俺がいうのもなんだがこのご時世にずいぶんと無用心極まりない。

 まあ、そういう店を選んだわけだが。

 これでも泥棒歴が2ケタにもなる俺にその辺の初歩的な下調べにぬかりはない。

 盗んだものは数知れない。

 北海の女神という名を冠した時価ウン億円のダイヤの時はセキュリティの解除に手こずった。

 マフィアのボスの自宅に忍び込み、命のやりとりにまで発展したピカソの“真なる遺作”。

 信長“自害の弾丸”にいたっては事前にその真贋(しんがん)鑑定のため数年を費やしたものさ。

 偽者を掴まされるのは泥棒にとって盗みに失敗するよりも、それこそ文字通り死ぬより恥ずかしいことだからな。

「そんな俺がなんでこんなとこで仕事してるのかね……」

 誰に問い掛けるでもなく、自虐的に自分につぶやく。