────お父様たちの国内移動用のリムジンに乗って屋敷を離れた。
陽子さんが運転して、私は最後尾の座席で窓の外を眺めていた。


どこに連れていかれるのかしら?
私、もうこの屋敷には戻って来れないかも……

だってお父様もお母様も本物の茉莉果ちゃんじゃない私なんていらないんだわ。


きっとそうよ。


「クッキーいかが? チョコチップが入ったクッキーよ」


「ありがとう。お母様……」



バスケットに並べられたクッキーを、一枚掴むと涙が出てきた。

お母様が、茉莉果って呼んでくれない……




お母様もクッキーを頬張ると窓の外を眺めて、何かのメロディを口ずさんでいる。

私にはそのメロディが何なのか……全く分からないわ。


こんな時、本物の紫音茉莉果なら一緒にメロディを口ずさみクッキーを食べたのかもしれない。